自尊心をへし折るっていう新人教育って何さ。
カテゴリー:これからの働き方
なかなか不思議なメールが来た。
とにかく御社の役に立ちたいのでわが社の話が聴きたい、会う時間を作って欲しいという。自分達は何ができるのか、どんな特徴があるのか、一切触れない。連絡先や社名の表記まで、どことなく手作りの匂いがした。いまどき、DMテンプレにももう少しまともなものがあるだろうに。
いつもなら削除して終わり。だけど今回は、直接連絡してみることにした。
実は飛び込みでわが社を訪問し、うちの会長とひとしきり話し込んだらしい。会長は都銀出身で下町での法人営業たたき上げだったので、人をみる目が常に温かい。なかなか面白い子で、まっすぐで一生懸命だったから話が弾んだそうだ。営業で廻ってきた子で、教育事業に反応した子は珍しかったよと聞いた。
外出先から戻る途中だったので、会社の近所で落ち合うこととなった。ほどなくして目の前に現れたのは、外資コンサルの新人さんだった。
いざ話が始まると、社名は言うなといわれている、具体的に何ができる会社なのかも言ってはいけない、ただ、事業をコンサルして成功に導いたことは何度もあるって話を繰り返す。
もはや、何が何だかわからなすぎる。
こちらもキャリアを支える仕事をしている身。新人育成についても不案内なわけではないので、入社してから今日までの話を訪ねてみると、ろくに新人研修があったわけでもなく、ただ売れるわけもない商材を預けられ、とにかく片っ端から飛び込み営業をさせられ、タフなメンタルを培うように仕向けられているようだ。
今時よくもまぁ、新人育成と称してこんなクソみたいなハラスメントを実践している会社があるもんだ、と心底呆れた。目の前で背中を丸め申し訳なさそうに小さくなりながらアイスコーヒーを啜っているのは、バリバリの国立の理系大学院出身者なのだ。
仕事では理不尽な思いをすることが多いから、どんな事象にも耐えられる強いメンタルが必要だとか、学生時代とは違う、世間の厳しさをまずは叩き込むべきだ、といったトンデモ理論をぶっこんで来る研修講師や会社が未だにある、なんて話を聴くことはある。“辛いことに耐えられるメンタル”を培うことができたから、昔の企業は伸びたのだ、と声を大にして叫んでいるらしい。
ハッキリさせておいた方がいい。
企業の業績が伸びたのは、人口の増加局面と賃金水準が低かったことが重なっただけの話で、ただただ「需要>供給」だっただけの話だ。逆に言えば、本当に“辛きを耐え忍んだ世代”が経済をけん引してきたのであれば、この30年に及ぶ世界から取り残された感は、何が原因なのか?
むしろ、理不尽な状況を少しでも理不尽じゃない状況にもっていける。そういう能力の方がはるかに建設的で、前向きではなかろうか。
この仕事は、本当にあなたが取り組むべき仕事なのか?
貴重な20代の時間を投じるに資する仕事なのか?
そんな話を柔らかくしたうえで、彼女は席を立った。
涙をぬぐった笑顔には新たな決意が漲っていた。