NAB就業教育研究所

http://www.nab-company.com

所長'sファインダー

「飯を食える大人」を育て、支えることに拘る、
赤坂にあるNAB就業教育研究所所長、佐々木直人のあれこれブログ。

プロフィール

佐々木直人

1973年生。
1998年三菱商事株式会社入社。ベンチャー企業の起ち上げから中央官庁まで、国・業界を問わず様々な新規事業を担当。中途採用のスキームを提案し面接官として合否判定や育成施策の企画にも携わる。 情報戦略統括部、経営企画部を経て独立し、2011年NAB就業教育研究所を設立。 学生や若手社会人のスキル向上、キャリア形成に正面から向き合い続けている。

“新卒一括採用”をやめると困るのは。その1

カテゴリー:就活



日本経団連が制度の見直しを表明して以降、「そんなことされたら困る」とか「そうだそうだ、海外と競って優秀な人材を採るには必要だ!」と色々騒がれていますが、一番の当事者であるはずの大学生、20卒(まさにこれから就活が始まる3年生)はまぁ大学関係なく、例年にないのんびりっぷりですね。こんなにのんびりなの、16卒以来でしょうか。そして21卒(新制度が最初に適用される2年生)はもちろん、「フーン変わるんだ、まぁ来年ゆっくり考えるか」で、こちらも反応は薄い。


当事者が全く騒いでいない。


ただ、3年生の肩を持つわけじゃないですが、呑気でのんびりしているというより、あまりに早くから“就活疲れ”、“キャリア講座疲れ”してるって見方が正しいのかもしれません。そりゃ、つまんなそうに働いている大人が出てきて、つまんない手続きとサイトへの登録が~、試験対策が~みたいな話しかしないわけですから、ウンザリするに決まってる。


ホントは、働くってかなり楽しい活動なんですけどね。そういうことを語ってくれる大人を増やす方が、本当にやるべき「働き方改革」のような気がしますけど。


さて、話題の新卒一括採用。やめるとどんな影響が出るんでしょう?個人的には、長い目で見ればデメリットの方が多いんじゃないかな、と思います。企業にも、働く人にも。


新卒一括採用のせいで、優秀な大卒が採れなかった、は本当か?


もう少し当事者のセグメントを分けて具体的に考えてみます。企業にも学生も、上位層・中間層・低位層というのがあります。






学生の上位層、これはどこの大学にもいる上位10%に満たない子たちで、成績がどうのこうのだけでなく、自分から積極的に場やしくみを作ろうと行動し、周りに流されずチャレンジし、学内外に居場所をもち、様々な大人たちと繋がっていきます。意識が高いというより、自然と興味があったら突き進んでいっちゃうタイプです。4年間の学生生活は、楽しくて時間が足りなくてしょうがないでしょう。

彼らは様々なタイプの大人と繋がる過程で世事に長け、思考力や対話能力を磨かれ、質の良い情報に触れる機会も早く多いため、成長著しいだけに留まらず、就活のサイクルと関係なく進路が決まっていきます。「きみ、うちにおいでよ」とか、「うちを受けてみたらどうだ、人事に行っとくから」というやつ。

こうした学生には、就活のスケジュールがどうなろうが関係ありません。自分の進路や適性も自分で考えながら切り拓いていけます。


 この思考・行動傾向をそのまま企業に置き換えてみます。特に採用というところに特化して。言わば“採用に関する上位企業”たちです。他社がどうであろうと、自社として中長期的な視点に立って求める人材像を定め、どのように広報しどのように採用していくべきかを考え、意思をもって取り組んでいる企業。こうした企業は、業界のトップ企業とも限りません。学生集めに苦労しない企業は、意外とルーチン作業を回すように採用やったりしかねませんし。






果たして、新卒一括採用の有無はこうした“上位学生・上位企業”にとって影響するんでしょうか?


“上位学生”にとっては、全く影響ありません。


早い時期に外資系企業から内定を貰ったからといって無条件で就活をやめたりせず、自分の可能性を広げられるチャンスがあるところは一通りみて進路を決めます。もし、こうした学生を「新卒一括採用のせいで採れない」という企業があるとすれば、それは単に自社の魅力が学生に届いていないから、受けてくれないだけです。


一方、“上位企業”の採用担当者にしてみれば、周りがどうであろうとほしい人材をどう採るかはハッキリしていますので、これも「制度を理由に優秀な人材が採れない」などといった捉え方はしないでしょう。そもそも、外資企業と優秀な人材を奪い合おうと考えている企業は、日本の大卒にその期待をしなくなっているように見受けられます。20数年前の大学生に比べ、国が拠出してくれるお金は学生一人当たり半分ぐらいになっています。「開発費は20年前の半分にするけど、最先端で今の世の中に通用する新製品作ってよ!」って、聴いただけでブラックな感じがしませんか?製品ですらそう思うんですから、まして人間。効率よく育てるなんてわけにはいきません。そりゃ、いくら優秀な卵が大学に入ってきても、これじゃ伸ばしきれませんって。でも「世界で戦える優秀な大学生を求める」ってそういうことなんですよ。採用のやり方云々じゃないですね。


ただ、少なくとも採用が“一括”でなくなれば、実は大手企業グループにとっては人材が集めやすくなるでしょう。これまで、有名親会社も子会社も6/1に一斉に面接を開始していたとすれば、どうしても有名親会社にばかり学生が受けに行ってしまいます。徐々に時期をずらしていけば、親会社から残念ながら内定貰えなかった優秀な学生に、「君がやりたいことはうちの子会社に現場があるんだけど、受けてみない?」と融通できるようになりますし。経団連傘下の企業で、ちゃんとルールを守って採用している企業だってあるわけですから。

そう、問題は次のセグメントなんですよ。


<つづく>